「不登校は問題行動ではない」と、国の提言で明確に示されているのをご存知でしょうか?
『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総則編』の第四節には、以下のような内容が記されています。
不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童にも起こり得ることとして捉える必要がある。また、不登校とは、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を「問題行動」と判断してはならない。(以下略)
「不登校」と呼ばれる子どもたちと関わる中で、社会に対して違和感を感じることがあります。
古くから変わらない教育システムや、みんなが同じを求められる雰囲気、そうせざるを得ない教育現場の限界、「不登校は甘えだ」という認識。
少なくとも確実に言えることは、「不登校の子どもたちは悪くない」ということです。
自分の身の回りでも教育に関しては様々な議論が交わされていますが、大事なのは「誰が悪いか」なんて議論じゃなくて、「どうすれば子どもたちが幸せになれるのか」という議論だと思います。
学校のせいにしたって、社会のせいにしたって、国のせいにしたって、現実は何も変わらない。
大事なのは「自分がどのように考え、何ができるのか」ではないでしょうか。
実際にそれを実践し、発信している人が数多くいます。
『学びを選ぶ時代 〜子どもが個性を輝かせるために親ができること〜」』
(東京都フリースクール等ネットワーク著)を読み、不登校に関する様々な知識や考えを知ることができました。僕は元小学校教諭として学校現場を経験し、現在は不登校の子どもの居場所づくりに携わってきましたが、いかに自分が無知だったのかを思い知らされました。
自分自身の自戒も込め、本書で紹介されていた文部科学省の資料に関する内容と感想をまとめます。
国が不登校を「悪いことではない」と明言している事実は、当事者の方にとって救いとなるのではないかと思います。
少しでも不登校への理解が広がりますように。
増え続ける不登校
本書に掲載された文部科学省の調査に基づくデータによると、平成30年度の小学生の不登校者数は前年と比べて28.0%増加しています。
不登校者の数は小中高を合わせると、16万4528人(全体の4.3%)にも及びます。
平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
本書では、不登校の問題について以下のように述べられています。
不登校の本当の問題は、子ども本人や学校にあるというよりも、子どもたちと現在の学校制度の間にミスマッチが生じていること、そしてそれを生じさせている社会にあるのは明らかではないでしょうか。
(『学びを選ぶ時代』p.26)
社会全体として、「不登校は良くないこと」、「学校に行かないのは甘えだ」といったような雰囲気があり、多くの親、地域、学校、そして子ども自身も「学校には行かなければならない」と感じているように思います。
しかし、これだけ多くの子どもたちが「学校に行けない」(もしくは「行かない」)と言っている以上、教育の在り方が現代の子どもたちの実態に合っていない部分もあるのではないでしょうか。
それは自分自身が教員をしていた頃から感じていたことでもありました。
学校が定めた規則と、指導・命令により子どもたちを管理する教育は、今も根強く残っています。
そして、そうしなければ決められた教育活動が行えないという環境下で、悩んでいる先生も多くいました。
子どもが下校してから始まる会議や行事の準備。定時を過ぎてからやっと自分の仕事に取りかかれても、研究授業の準備や行事の企画、担当する校務分掌の業務、保護者への電話連絡等と、やることは山積み。1日6時間ある授業の準備はその後に行い、毎日帰るのが夜遅くなる教師はとても多いです。
中でも最も神経を使うのは、学校でのトラブル。学校で起こったトラブルは放課後電話で家庭に連絡し、場合によっては家庭訪問。大きなトラブルの場合管理職を交えての会議が開かれることも多々あります。
そしてやはり、そのようなトラブルが起こらないように管理的な教育に頼ってしまうという一面はあると思います。僕自身そのような教育に違和感を抱いていましたが、学校現場で理想は通用しませんでした。
(もちろん、上手に子どもたちと関わる素晴らしい先生方もたくさんおられます)
不登校が増える背景には、このような学校現場の大きすぎる負担があると思います。
国からの不登校に関する3つの提言
僕自身、学校や居場所で子どもたちと関わる中で、不登校は悪いことではないし、フリースクールや居場所のような多様な選択肢が当たり前に認められるべきだという思いを抱いてきました。
一方で「学校には行かなければならない」、「行かせなければならない」、「学校に行けないのは恥ずかしいことだ」といった価値観の方が、実際は一般的なのではないでしょうか。
しかし、「東京都フリースクール等ネットワーク」や様々な方たちの活動を受けて、2016年頃から文部科学省からも不登校を「『問題行動』と判断してはならない」といった提言が示されるようになりました。
『学びを選ぶ時代』の中で、文部科学省ホームページに掲載されている3つの資料が紹介されていました。
・「不登校児童生徒への支援の在り方について」
・『教育指導要領解説』
これらの資料より一部抜粋して掲載していきます。
教育機会確保法より
以下、「別添3 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(平成28年法律第105号)」より一部抜粋します。
(学校以外の場における学習活動等を行う不登校児童生徒に対する支援)
第十三条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ、当該不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう、当該不登校児童生徒及びその保護者(学校教育法第十六条に規定する保護者をいう。)に対する必要な情報の提供、助言その他の支援を行うために必要な措置を講ずるものとする。
別添3 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(平成28年法律第105号)
平成28年に制定された教育機会確保法の第十三条では、「学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性」、「不登校児童生徒の休養の必要性」、「必要な情報の提供、助言その他の支援を行うために必要な措置を講ずる」といった内容が示されました。
法律により「休養の必要性」が示されたことで、子どもも親も「学校に行かなければ、行かせなければ」というプレッシャーが緩むのではないかと思います。
ただ居場所の活動をしていると、こういった法律に関する情報や様々な居場所やフリースクールの情報は、まだ必要な人に行き届いているとは思えないのが現状です。
(僕自身、詳しい内容は本書を読んで初めて知りました。)
「不登校児童生徒への支援の在り方について」より
平成28年9月14日に、以下のような「不登校児童生徒への支援の在り方について」が通知されました。
一部を抜粋して掲載します。
不登校とは,多様な要因・背景により,結果として不登校状態になっているということであり,その行為を「問題行動」と判断してはならない。不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭し,学校・家庭・社会が不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢を持つことが,児童生徒の自己肯定感を高めるためにも重要であり,周囲の大人との信頼関係を構築していく過程が社会性や人間性の伸長につながり,結果として児童生徒の社会的自立につながることが期待される。
不登校を「『問題行動』として判断してはならない」ということや、「不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭」することが重要であると示されています。
このように不登校は問題行動ではなく、悪いことではないことを示す提言が出されたことが周知されれば、世の中の不登校に関する価値観は大きく変わるでしょう。
しかし、いまだに不登校への偏見は根強く残っているように感じます。
また、令和元年10月25日の通知では、以下のような内容が盛り込まれました。
(1)支援の視点
不登校児童生徒への支援は,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること。また,児童生徒によっては,不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で,学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。
「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく」、「不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある」といった内容が明記されています。
必ずしも学校へ登校することだけがゴールではなく、多様な学び方が認められつつあると言えるのではないでしょうか。
学習指導要領解説より
学校の教育の根幹である学習指導要領にも、不登校についての項目が盛り込まれています。
以下、『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総則編』より一部抜粋します。
『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総則編』
第3章 第4節 2(3) 不登校児童への配慮
不登校は,取り巻く環境によっては,どの児童にも起こり得ることとして捉える必要がある。また,不登校とは,多様な要因・背景により,結果として不登校状態になっているということであり,その行為を「問題行動」と判断してはならない。加えて,不登校児童が悪いという根強い偏見を払拭し,学校・家庭・社会が不登校児童に寄り添い共感的理解と受容の姿勢をもつことが,児童の自己肯定感を高めるためにも重要である。
また,不登校児童については,個々の状況に応じた必要な支援を行うことが必要であり,登校という結果のみを目標にするのではなく,児童や保護者の意思を十分に尊重しつつ,児童が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要がある。
僕自身の勉強不足は否めませんが、教師でありながらこのような項目が掲載されていたことは知りませんでした。
この内容を教師が理解しているかいないかで、不登校児童への対応は大きく変わります。
僕も教師時代は、学校側が子どもに対して「学校は来なくてもいいんだよ」とは絶対に言えなかったし、なんとか学校へ来られる方法を考えるべきだと思っていました。
しかし、「登校という結果のみを目標にするのではなく」、子どもの意思を尊重すべきだということは、学習指導要領でも明記されていたのです。
実際、このような内容が学校現場に深く浸透しているとは思えません。
「不登校」をただ「学校に行っている・行ってない」だけで判断するのではなく、子どもたち一人ひとりの実態と、目まぐるしく変化する社会の状況と照らし合わせて見ていく必要があるでしょう。
認められつつある学校以外の場
まだまだ浸透はしていないかもしれませんが、「不登校は悪いことではない」ということは徐々に認められつつもあります。
学校以外の選択肢として、フリースクールや居場所でも「出席認定」がもらえる場が増えているのです。
(「出席がすべてなのか?」という議論は置いておいて)
実際に僕が関わっている居場所でも、出席認定をもらえる学校は多くあります。
これから先、「不登校」ではなくて、「学校で学ぶ」・「フリースクールで学ぶ」・「その他の場所で学ぶ」といった選択肢が増えていくのではないかと思います。
まさに「学びを選ぶ時代」になっていくのではないでしょうか。
不登校の子どもが否定されることなく、多様な学び方・生き方が認められ、子どもたちの未来が明るく広がっていくことを願っています。
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